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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)168号 判決 1991年3月14日

原告 株式会社 ザ・ボックス

右代表者代表取締役 緒方眞二

右訴訟代理人弁理士 西郷義美

被告 特許庁長官 植松敏

右指定代理人 白浜国雄

<ほか一名>

主文

特許庁が昭和六〇年審判第二〇四九号事件について平成二年四月一九日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文同旨の判決

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五七年一月二五日、別紙一に示すとおりの構成からなり、指定商品を第一七類「被服その他本類に属する商品」とする商標登録出願(昭和五七年商標登録願第四五二五号)(以下「本願商標」という。)をしたところ、昭和五九年一二月一四日、拒絶査定されたので、昭和六〇年二月五日、これを不服として審判の請求をした。特許庁は、右の請求を昭和六〇年審判第二〇四九号事件として審理した結果、平成二年四月一九日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をなし、その謄本は同年七月一八日原告に送達された。

二  審決の理由の要点

1  本願商標の構成及び指定商品は前項記載のとおりである。

2  これに対し原査定において本願拒絶理由に引用した登録第一三〇六一六九号商標(原審拒絶理由通知書に第一三〇六〇一六九号とあるのは誤記と認める。)(以下「引用商標」という。)は、別紙二に示す構成よりなり、第一七類「被服(運動用特殊被服を除く)、布製身回品(他の類に属するものを除く)、寝具類(寝台を除く)」を指定商品として、昭和四五年一〇月二〇日に登録され、その後、昭和六二年一一月一七日に商標権存続期間の更新登録がなされているものである。

3(一)  本願商標と引用商標の類否について判断するに、本願商標は別紙一に示すとおり、「THE」及び「BOX」の文字を装飾書体で陰影だけで表したとみられるものである。

(二) しかして、「THE」と「BOX」の両文字は、その文字の大きさを異にするばかりでなく、上下二段に表されてなる構成よりして、外観上、それぞれの文字の部分に分離して看取し得るところである。そして、「THE」の文字は、英語の定冠詞を表したものと理解されるにすぎないものであるから、看者は、商標中自他商品識別標識として顕著な部分は「BOX」の文字部分にあるものと認識し、該文字部分を把えて「ボックス」と称呼して取引にあたる場合も決して少なくないものというを相当とする。そうすれば、本願商標は請求人(原告)の主張するように「ザボックス」と称呼される場合があるとしても、単に「ボックス」の称呼をも生ずるものといわざるを得ない。

(三) 一方、引用商標は別紙二に示すとおり、ふくろう(梟)を表したと思える図形内に白抜で表してなるものである。そして、その図形と文字の各部分とは常に一体不可欠のものとしてみなければならない特段の理由も見当たらないものであるから、それぞれが独立して自他商品識別標識としての機能を果たし得るとみられるものである。してみると、引用商標はその構成中「VOX」の文字部分に相応して「ヴォックス」の称呼を生ずるものといわなければならない。

(四) そこで、本願商標より生ずる「ボックス」、引用商標より生ずる「ヴォックス」の両称呼を比較するに、その差異は語頭の「ボッ」と「ヴォッ」のあるものである。しかしながら、後者の「ヴォッ」の音は、「ヴ」、「オッ」のように二音に区切って発音されるものではなく、むしろ、一音の如く発音し聴取されるものであるから、前者の「ボッ」の音とは同一視することができるほど、互いに酷似した音であるといい得るものである。

(五) してみれば、両称呼をそれぞれ一連に称呼するときは、その語感、音調は互いに紛れるものとなり、彼此判然と聴別し難いものといわざるを得ない。したがって、本願商標と引用商標とは、その外観、観念について論及するまでもなく、称呼において類似する商標であり、かつ、指定商品も同一のものと認められるから、結局、本願商標は商標法四条一項一一号に該当し、登録することができない。

三  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点1、2は認める。同3(一)は認め、(二)ないし(五)の判断は争う。

審決は、本願商標と引用商標についての称呼認定及び称呼の対比判断を誤り、これが審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、違法として取り消されるべきである。

1  まず、審決が本願商標の構成中から自他商品識別標識として機能する部分として「BOX」の文字部分を抽出し、この文字部分から「ボックス」の称呼が生ずる場合も少なくないものと認定した点は誤りである。すなわち、本願商標の標章は、出願当時の原告の名称「有限会社 ザ・ボックス」中の「ザ・ボックス」の文字を抽出し、需要者、取引者に出願人の名称を意識させようと企図して、別紙一に示すとおり欧文字「THE」及び「BOX」を、上下段に配置し、かつ下段の「BOX」を大文字で、しかも比較的大きく表す一方、上段の「THE」を大文字で、しかも、「BOX」よりは小さく表して下段の「BOX」の中の「O」上に位置させ、全体に陰影を使用して装飾書体で表したものである。したがって、看者をして、本願商標の標章は、上段の「THE」と下段の「BOX」とを順次に一体的に称呼させ、全体として「ザボックス」と一連に自然に称呼させるものとみるべきである。本願商標の標章は、「THE」と「BOX」とが一体不可分の関係にあって、両者を分離して看取するよりは、一体に把握され、全体的に観察されるものと認められる。「THE」と「BOX」とも三文字ずつからなり、極めて短い語であることからも、本願商標は全体として観察されるとみるのが妥当である。この結果、本願商標のうち、自他商品識別標識として顕著な部分は、「BOX」の文字部分のみではなく、「THE」と「BOX」との両欧文字を結合した全体的な構成であるから、「THE」と「BOX」とを分離して観察するのは誤りである。本願商標に接する取引者、需要者がどのように認識理解するかという観点からみると、本願商標を構成する「THE」と「BOX」との各文字は、全体として印象的なものとなっており、一体不可分の関係にあるので、全体的に観察され、分離した観察はなされないものとみるべきである。この点、審決は、本願商標が上下二段に表されてなる構成であることから、外観上、それぞれの文字の部分に分離して看取し得るというが、そのように画一的にはみるべきではなく、また、「THE」の文字は、英語の定冠詞を表したものと理解されるにすぎないものであるから、看者は、商標中自他商品識別標識として顕著な部分は「BOX」の文字部分にあるものと認識する旨認定しているが、前述のとおり「THE」の文字は、下段の「BOX」に比べて小さくかつ短く表記されていて、この「THE」の文字は、「BOX」の文字と共働して自他商品識別機能を果たすものであるから、看者としては、全体的に観察するものとみるのが相当である。したがって、引用商標は、「ザボックス」と一体に称呼されるものというべきである。

2  審決が引用商標はその構成中の「VOX」の文字部分に相応する「ヴォックス」の称呼を生ずるものと認定した点は誤りである。

引用商標は、ふくろうの図形内に「VOX」の欧文字を小さく白抜きで表してなるものであるところ、右の「VOX」の文字のうちの語頭音「VO」は、英米人にあっては、上前歯を下唇上に軽くのせて空気を出す破裂音として「ヴォッ」と容易に発音することができるのであるが、日本人にとっては、この「ヴォッ」の発音が難しく、むしろ「ブォッ」と発音しがちである。したがって、引用商標中の「VOX」は「ヴォックス」と聴解されると認められる。引用商標の図形と欧文字との構成を全体的に観察すると、看者にとっては、ふくろうの図形が自他商品識別標識として顕著な部分であると認められる趣が極めて大である(引用商標を全体的に観察するときに、一般に親しみ易く、かつ注意を引き易い部分は、ふくろうの図形である。)。しかして、引用商標においては、「VOX」がふくろう図形の付記的部分であり、ふくろうと「VOX」との両者が一体となってはじめて商標の類否判断の対象となるものというべきである。ふくろうと「VOX」とは一体不可分の関係にあって、それぞれが独立しては自他商品識別標識としての機能を果たし得ないものと認めるべきである。したがって、引用商標においては、図形と文字とが一体不可分の関係にあるところから、引用商標は、「フクロウブォックス」の称呼が生ずるものと認めるのが相当である。

3  本願商標から生ずる「ザボックス」の称呼と引用商標から生ずる「フクロウブォックス」の称呼を対比すると、その差異は、本願商標の「ザボッ」と引用商標の「フクロブォッ」とにあることになるが、一連に称呼した場合には、両者は、その聴感、音調が互いに異なるので容易に聴別できるものである。また、引用商標の構成から「VOX」の文字を抽出したとしても、この「VOX」の文字からは前述のとおり「ブォックス」の称呼が生ずるのであるから、本願商標の「ザボックス」の称呼と引用商標からの「ブォックス」の称呼を対比してみても、「ザボッ」と「ブォッ」との差異があるので、両者はその聴感、音調が相違する。したがって、本願商標と引用商標との称呼において紛らわしいものとはいえない。更に、仮に、本願商標の構成のうちから「BOX」の欧文字のみを分離抽出し、引用商標から「VOX」の欧文字を抽出して、その称呼を対比するとしても、本願商標の「BOX」は、上下の唇を閉じて瞬間的に唇を関けて空気を出す破裂音として「ボックス」と称呼されるのに対して、本願商標のうちの「VOX」の欧文字は、前述したとおり日本人においては、概ね「ブォックス」と称呼され、かつそのように聴解されるものである。したがって、「ボックス」と「ブォックス」の称呼を対比してみると、その差異は、称呼における識別上重要な要素を占める「ボッ」と「ブォッ」とにあることになるが、前者の「ボッ」の音は単音であるのに対し、後者の「ブォッ」の音は、むしろ「ブ」と「ォ」との二音に区切られて、称呼され、かつ聴解される。したがって、本願商標の「ボッ」の音は、引用商標の「ブォッ」とは、十分に区別され、「ブォッ」の音と酷似するとは認められない。してみると、たとえ、本願商標中の「BOX」と引用商標中の「VOX」の文字のみを抽出したとしても、「BOX」と「VOX」とを称呼するときには、その語韻語調に差異があり、彼此判然と聴別し得るものである。

更に、被告主張のように、引用商標の「VOX」の文字部分から「ヴォックス」の称呼が生じるとして、これを本願商標の「ボックス」の称呼と対比したとしても、日本国内において英語をはじめとする種々の外国語が用いられるようになってきており、一般の取引界においても、英文字「VOX」は、強く明瞭に発音されるから、引用商標の「ヴォッ」の音は、本願商標の「ボッ」の促音とは明瞭に区別されるものである。したがって、たとえ、引用商標から「ヴォックス」の称呼が生じるとしても、本願商標の称呼とは称呼上類似するとはいえない。

第三請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一、二の事実は、認める。

二  同三の主張は、争う。審決の認定判断は正当であって、審決には原告主張のような違法の点はない。

1  商品の取引において取引者、需要者が商品に付された商標を称呼する場合に、その商標を構成する文字の全体を把えて称呼する場合があることは、必ずしも否定しないが、簡易迅速を旨とする取引場裡においては、商標使用者の意図はともかくとして、商標を構成する文字中、最も顕著な部分あるいは印象的な部分を適宜抽出して、その部分から生ずる称呼によって商品を選別する場合が少なくないことは、取引の経験則に照らして明らかなところである。しかして、審決は、右の観点から、本願商標を構成する「THE」と「BOX」の各文字は、文字の大きさが異なることや二段構成よりなる点など、外観上不可分一体に構成されているものではないことに加えて、「THE」の文字部分が英語を理解する者にとっては、定冠詞を表すものとして容易に理解されるものであるから、本願商標に接する取引者、需要者は、それ自体自他商品識別標識としての機能を備えていない「THE」の文字部分に対して、その識別標識として顕著な部分が「BOX」の文字にあるものと把握して、これより「ボックス」と称呼して取引にあたることも決して少なくないと判断したものである。したがって、本願商標が、たとえ「ザボックス」の称呼をもって取引される場合があるとしても、単に「ボックス」の称呼をも生ずるとした審決の称呼の認定には誤りはない。審決においても、本願商標の全体を観察し、そのうえで、全体として一体性が弱く、付加的部分と認められる部分があるので、これを除いて要部について観察したものであることは、本願商標より生ずる称呼について、「ザボックス」と称呼される場合もあるとしたうえで、単に「ボックス」の称呼をも生ずると認定していることから明らかである。また、被告は、本願商標中の「THE」は、前述のとおり定冠詞として理解されるから、「THE」の文字単独では、自他商品識別標識としての機能を果たさないからこそ、識別標識として顕著な部分が「BOX」の文字にあるものと把握したのである。したがって、「THE」や「An」などの冠詞を構成の一部とする商標が登録されていることをもって、本願商標を一体不可分のものと認識すべき証左とはなし得ない。

2  引用商標中の「VOX」の文字部分は図形部分に比べて小さく書されているとはいえ、「VOX」の欧文字であることが明確に認められるものであり、ふくろうの図形が顕著に大きく描かれている点を考慮しても、「VOX」の文字部分が、引用商標にあって付記的部分であるとは認められず、かつ両者が一体不可分の関係にあるものとはみられないから、引用商標は全体として「フクロウヴォックス」の称呼のみを生ずるものとする原告の主張は妥当でない。原告は、引用商標の構成中の「VOX」の文字部分からは「ヴォックス」ではなく、「ブォックス」の称呼が生ずる旨主張するが、原告のいう「ブォックス」と審決の認定した「ヴォックス」とは文字で表示する場合には区別できても、発音する場合には両者は区別し難いものであるから、称呼上は同一の称呼と認められるものである。したがって、引用商標の構成中の「VOX」の文字部分から「ヴォックス」の称呼が生ずるものとした審決の認定は正当であって何ら誤りはない。

3  しかして、引用商標より生ずる「ヴォックス」の称呼は、「ヴ」の母音(u)よりこれに続く「オッ」の音が明瞭に聴取される関係上、「ヴォッ」と一音の如く発音し聴取されるものであるとして、本願商標より生ずる「ボックス」の称呼とは、極めて近似するから、本願商標と引用商標とが、称呼上類似する商標であるとした審決の判断には誤りはない。

第四証拠関係《省略》

理由

一  請求の原因一、二の事実(特許庁における手続の経緯及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二  取消事由の判断

1  本願商標の構成を表示することについて当事者間に争いのない別紙一によれば、本願商標は、装飾書体で陰影だけで表されているとはいえ、大きく重厚な感じで表された「BOX」の欧文字の中央上段に相対的に小さく「THE」の欧文字を配置した構成のものであることが認められる。かような各段の文字の大きさの異なる二段構成に加えて、小さく表現されている「THE」の文字が英語の定冠詞として以上の意味内容をもつものでないことを併せ考えれば、二段構成にもかかわらず、取引者、需要者が本願商標に接するときは、本願商標のうち「BOX」の欧文字のみに着目して、これから生ずる「ボックス」の称呼をもって取引に当たることも決して少なくなく、本願商標からは「ボックス」の称呼も生ずるものと認めるのが相当である。原告は、出願当時の原告の名称である「有限会社 ザ・ボックス」中の「ザ・ボックス」の文字を抽出し、需要者、取引者に出願人の名称を意識させようと企図して本願商標を別紙一に示すとおりの構成を採用したものであるから、看者は、上段の「THE」と下段の「BOX」とを順次に一体的に称呼し、全体として「ザボックス」と一連に自然に称呼するものとみるべきであると主張する。しかし、そもそも商標は輾々流通する商品に付されて用いられるものであって、それのみで自他商品識別機能を奏することが期待されるものであるから、これに接する取引者、需要者においても、必ずしも、その商標の付された特定の商品についてその製造者もしくは販売者の氏名や社名を認識しているわけではないので、必ずしも、本願商標の構成を通して、需要者、取引者に出願人の名称(ザボックス)を意識させようとした企図が実現され得るものではなく、したがって、一般の取引者、需要者における原告の名称についての認識を前提とし、これを根拠にして、本願商標が、全体として「ザボックス」と一体的に称呼されるとする原告の主張は採用できない。

2  引用商標が別紙二に示される構成であることについては当事者間に争いがなく、これによれば、引用商標は、フクロウ目フクロウ科に属するコノハズクを図案化したと思われる図形の腹部中央付近に「VOX」の欧文字を配した図形と文字により構成された一見して結合性の強い商標であると認められる(右図形が鳥類分類学において、フクロウ、コノハズク、ミミグスのいずれにあてはまるのか必ずしも明らかでないが、いずれもフクロウ科に属するものであり、一般大衆もかかる分類にもかかわらず、これをフクロウと認識するものと推察されるから、以下において右図形を「フクロウの図形」という。)。

ところで、商標、特に図形と文字という異なる構成部分をもつ商標にあっては、特段の事情のない限り、これを一体のものとして把握すべきであり、みだりにその構成部分の一部を捨象し一部を抽出し、抽出部分だけを他の商標と比較して類否判断をすることは許されないところである。そこで、前記のような構成の引用商標において右のような特段の事情の有無について検討する。

先ずフクロウの図形とその腹部中央付近に配された「VOX」の文字との関係をみるに、別紙二によれば、図形全体の縦の長さは耳羽部分を除いても約三・六センチメートルであるのに対し、文字部分の縦の長さは約〇・四センチメートルに過ぎず、また、文字部分の横の長さは約一センチメートルであるのに対し、文字が配されている図形部分の幅は一・六センチメートルであって、図形中に占める文字部分の割合は小さい。加えて、図形は頭部、胴部、尾羽根部に分かれ、頭部と胴部は全体として細かい多数の白色の斑点を配した黒色の地を背景として、頭部は額から鼻筋を経て嘴までを細い白抜きとし、目は大きな二重の白抜きの中央に黒丸を配し、胴部の両側及び足の爪部(六本)を白抜きとし、尾羽根部は六本の尾羽根を白抜きの間隔をおいて配しており、何人も一見して右図形がフクロウを表しているものと認識するものと認めることができる。したがって、引用商標にあって、フクロウの図形は特徴的部分を形成しているものと認めることができる。他方、「VOX」の文字は前記のような図形中に占める部分は少なく、やや太い白抜きにより描かれているが、前記のように図形中には他にも白抜き部分があるから、白抜きが文字部分にのみ存する特有の構成と認めることはできない。また、「VOX」は「声、言葉」を意味する英語であるが、「VOX」の字義が一般に普及しているか否かは疑問であるから、フクロウとは直接関係のない造語的な意味で受け取られることが多いと推測される。さればとて、前記のような図形中の配置に照らし、そのことの故に文字部分が特に注意を引くとも認めがたい。したがって、引用商標にあって、文字部分は、図形部分に比して注目される度合いが低いものというべきである。

このような引用商標における図形の特徴、図形と文字の結合関係からみて、取引者、需要者の多くは図形と文字を一体不可分なものと観察し引用商標の結合構成全体を自他商品識別標識としての機能を有するものとして認識するか、或いは図形部分を同標識としての機能を有するものとして認識するものと認めるのが相当である。すなわち、フクロウの図形部分は前記特段の事情とはなり得ても、「VOX」の文字部分が右図形部分を捨象してそれのみが抽出され、称呼される特段の事情とはなり得ないものというべきである。

以上によれば、引用商標からは、「フクロウヴオックス」又は「フクロウ」の称呼が生じるものと認められるのであるから、これと本願商標から生じる「ボックス」の称呼と彼此混同のおそれはないものということができる。なお、商標の類否を判断するにあたり、被告の主張する取引の簡易迅速の要請に配慮すべきは当然ながら、反面、取引界においては商品の選択に誤りなきを期するため、簡易迅速の要請とともに、称呼の正確性、識別性の要請も無視してはならない。引用商標の前記認定に係る「フクロウヴオックス」、「フクロウ」と審決認定に係る「ヴオックス」と対比しても、前者が、後者に比し、称呼上簡易迅速性に特に劣るとは認められないし(「フクロウヴオックス」と「ヴオックス」の字数の差が称呼による簡易迅速性に影響を及ぼすものとは考えられない。)、称呼の正確性、識別性の観点からは前者の称呼がすぐれていることは明らかであり、かかる称呼は取引界において十分通用性があるものということができる。

3  右のとおり、本願商標と引用商標の称呼を対比すると、本願商標からは「ボックス」の称呼が生ずるのに対し、引用商標からは、「フクロウヴオックス」又は「フクロウ」の称呼が生じるものと認められるのであるから、両称呼は彼此混同のおそれはないものということができる。したがって、引用商標の構成中から「VOX」の文字部分のみを抽出し、引用商標からはこれに相応する「ヴォックス」の称呼が生ずるものと認定したうえ、本願商標と引用商標とは称呼において類似する商標であるとした審決の認定判断は誤りであるから、審決は違法として取消しを免れない。

三  以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤った違法があることを理由に、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるものとして、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 舟橋定之 杉本正樹)

<以下省略>

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